当館が毎月発行している小さな情報紙「石神の丘美術館通信 イシビ」にて連載中の、芸術監督・斎藤純の
ショートコラムをご紹介します。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤 純のショートコラム vol.175
NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』が始まりました。昨年の制作発表時、大河ドラマの主人公がツタジュウこと蔦屋重三郎であることにまず驚きました。ツタジュウを主人公にすれば、否が応でも吉原を描かないわけにはいかないからです。吉原はわざわざ説明するまでもなく、巨大な遊廓です。そこを大河ドラマの舞台にするとは、NHKも変わったものです。あるいは、視聴者が変わったというべきなのかもしれません。
昨春、東京藝術大学大学美術館で『大吉原展』という力の入った企画展が開かれ、人気を博したときも驚きました。吉原は決してきれいごとでは済まない場所であり、「苦界」とも言われた場所だったのですから。
ちょうど10年前の2015年に、東京の永青文庫で開催された『春画展-shunga-』では歌麿や北斎らの手になる春画が墨塗りなしの無修正で展示され、予想を遥かに超える来館者を集めて話題になりましたが、これは個人美術館だからできたこと。その前年、大規模な『春画展』を開いた大英博物館から日本での開催を希望する打診がありましたが、受け入れる公立美術館がなく、実現しませんでした。今だったら、あるいは可能かもしれません。
そういえば、『春画展-shunga-』も『大吉原展』も圧倒的に女性客が多かったことにも私は驚かされました(私は小さくなって会場をまわりました)。
春画はともかくとして、日本は、印象派美術の展覧会のほうが浮世絵の展覧会よりも遥かに多いという不思議な国です。この機会に浮世絵を観る機会が増えることを願っています。