美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.91」
15年ほど前ですが、一時期、津軽三味線に熱中したことがあります。
オートバイで津軽を旅したときに、弘前の郷土料理店で津軽三味線の生演奏を聴いたのがきっかけでした。
それまでもラジオやテレビ、CDなどで耳にしたことはありましたが、生演奏をちゃんと聴いたのはそれが初めてでした。
その迫力もさることながら、小さな音から大きな音までダイナミックレンジの広さに圧倒されました。
知人を介して日本でも屈指の津軽三味線奏者を紹介していただき、ますますハマってしまいました。
その津軽三味線奏者は何を隠そう、松田隆行さんです。
津軽三味線の歴史をひもとくと、生まれたのは明治初頭だそうです。
江戸時代からあると思いこんでいたので、ちょっと意外でした。
脱線しますが、津軽三味線の歴史は、フラメンコギターのそれとずいぶん重なります。
フラメンコギターも100数十年の歴史です。
フラメンコを始めたのは、国籍を持たないジプシーでした。
ジプシーは蔑まれ、虐げられてきた民です。
一方、津軽三味線の創始者たちもボサマと呼ばれ、虐げられた人々でした。
そして、津軽三味線もフラメンコギターも「歌」の伴奏でしたが、しだいに独奏楽器として発展していきます。
作りやリズムにも似たところがあるのですが、その話は別の機会にしましょう。
津軽三味線は、民謡の世界から歌謡界のスターになった三橋美智也によって昭和40年代に一躍脚光を浴び、高橋竹山、白川軍八郎、木田林松栄といった名人の活躍のおかげで芸術音楽として広まっていきます。
今日では吉田兄弟、木乃下真市(木下伸市)、上妻宏光といったジャンルを超えた津軽三味線奏者もよく知られています。
松田隆行さんは「津軽三味線は民謡の伴奏」という基本を大切にしています。
松田さん自身、民謡歌手でもあります。
歌って弾ける数少ない、本物の津軽三味線奏者と言っていいでしょう。
私に津軽三味線の真の魅力を教えてくれた松田隆行さんのライブを4月29日(土・祝)に石神の丘美術館ギャラリーホールで開催します。
詳しくは美術館からのお知らせ(チラシなど)をご覧ください。