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芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.88

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.88」

明けましておめでとうございます。

 

昨年末に予告した通り、無事に還暦を迎えました。

もっとも、予告をしようがしまいが誰でも歳は取ります。

あたりまえといえばあたりまえのことです。

 

でも、果たしてあたりまえのことかと改めて問いかけてみれば、そう言い切れないような気もしてきます。

 

先輩作家の故中津文彦さんが還暦を迎えられたとき、私は恐る恐る「還暦のお祝いを…」と持ちかけました。

恐る恐るというのは、中津さんがそういう慣例(あるいは、形式めいたこと)をあまり好まない方だったからです。

ところが、意外にも「おお、いいね。やろう、やろう」と二つ返事で承諾を得たのです。

その理由は親しい作家が集まった還暦祝いの場で明らかにされました。

「祖父も父も還暦前に亡くなっている。私は一族の中で久々に還暦を迎えることができた男ということになる。これはありがたく、めでたいこと…」

 

あのときの中津さんの笑顔が今も瞼に浮かびます。

 

平均寿命が伸び、企業の定年も60歳から65歳に伸びつつありますが、だからといって私たちの身のまわりから決して死が遠くなったわけではありません。

 

新年早々、何か縁起の悪い話になってしまいましたが、別の言い方をするならば、還暦を迎えたことは(私に限らず)決してあたりまえのことではないということです。

この機会に、改めて感謝したいと思います。

 

還暦は干支が一巡して、振り出しに戻るという意味です。

還暦のときに赤いチャンチャンコを着る風習は、赤ん坊に魔除けの赤い産着を着せたことに由来しているそうです。

 

私は赤いチャンチャンコの代わりに赤いエレキギターを私自身へのお祝いとして新調しました。

そのギターを使って、先月、盛岡でライヴを行ないました。

仲間たちがたくさん集まってくれ、思い出深いものになりました。

大袈裟ではなく、「生きていてよかった」と思いました。

これは若いころにはなかった感覚です。

オートバイで旅をしているときに「生きていてよかった」と感謝の念を抱くようになったのも近年になってからのことです。

 

コンサートホールでも、あるいは美術館でも、音楽や美術の素晴らしい作品と出会えたときに私は「ああ、生きていてよかった」と心の底から喜びを覚えます。

石神の丘美術館もそういう出会いの場でありたいと思っています。

 

今年もどうぞよろしくお願いします。

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