美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。
なお、過去のエッセイをご覧になりたい場合は、
「美術館通信」コーナーよりpdf形式でご覧ください。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.63」
読書の秋です。
若い人に読んでもらいたい本を推薦してほしいと依頼されることがよくあります。
私は意図的に「本」だけでは完結しないものを選ぶように心がけています。
たとえば、山登りの本とかオートバイに関する本などのように、読書をきっかけに実際に体験してみたくなる内容の本です。
物書きがこんなことを言ってはマズいのですが、「本を読むよりもまずオートバイに乗りなさい(あるいは、山に登りなさい)」というのが私の本音です。
読書はその後からでいいと思っています。
読書離れが社会問題のようになって久しいですが、それでは本を読まない代わりに何をやっているのでしょうか。
「音楽、あるいはスポーツに打ち込むあまり、本を読む時間がない」というのならわかります。
私たちの時間は限られていますから、当然、優先順位をつけなければなりません。
その結果、読書を後回しにすることはあるでしょう。
けれども、あくまでも「後回し」であって、読書を除外するのは問題外だと思います。
たとえば、ロックだろうとクラシックだろうと音楽をやる人にとって読書は、楽器の演奏と同じくらいに大切です。
実際、多くの一流音楽家が音楽を学んでいる学生に「楽器の演奏技術を磨くのも大切だが、まず本を読みなさい」と諭している光景を私は何度も目にしています(たとえば、ベートーヴェンを演奏するには、ベートーヴェンが生きていた時代を理解するための歴史書を読む必要があります)。
一流のスポーツマンには、歴史上の偉人の伝記や歴史小説がよく読まれているようです。
チームワークのまとめ方、作戦の立て方、精神論など参考になることがあるからでしょう。
私は音楽書や芸術書を読むのも好きですが、この場合もやはり「読む前に聴く(あるいは、読む前に観る)」が基本です。
知識を詰め込んで、頭でっかちになるための読書なんてつまらないと私は思っています。
ここ数年、私は本を読む時間がどんどん減っています。
本を読むペースも落ちました。
それでも読みたい本は増えますから、未読の本の山が高くなっていく一方です。
というわけで、本を読む時間をつくることが私のこれからの大きなテーマです。