美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。
なお、過去のエッセイをご覧になりたい場合は、
「美術館通信」コーナーよりpdf形式でご覧ください。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.62」
いよいよ、『高橋克彦一人六人展』が開幕しました。
これは、今、日本で最も読まれている作家の一人である高橋克彦氏の全貌を紹介するものです。
高橋氏の作品はミステリー、怪奇小説、歴史小説、SFと多岐に渡っており、そのすべてのジャンルで文学賞を受賞なさっています。
これは実に稀なことです。
ミステリー作家、怪奇小説作家、歴史小説作家、SF作家という4つの顔に、もともとの出発点だった浮世絵研究家の顔、さらにはプロはだしの写真家の顔(そして、真景錦絵作家の顔)を加えて「一人六人展」というわけです。
私には本展を「生きている文学館」にしたいという思いがありました。
作家を顕彰した文学館や記念館は珍しくありませんが、それらは画一的で、一度行けばもう充分というところがほとんどです。
もっとわくわくする文学館ができないだろうかと、いつも不満に思っていました。
いずれ高橋克彦文学館・記念館が実現することでしょう。
そのとき、礎になるような企画展にしたいと考えたのです。
その思いをどれだけ形にすることができたか、実はまだまだ満足していません。
たとえば、高橋氏のシングルレコードやLPレコードの大コレクションを展示できませんでした。
このコレクションは昭和歌謡史の知られざる細部から全体の流れまでカバーできるもので、氏自身の解説によるレコード・コンサートもいつも満員になる人気ぶりです。
愛煙家ならずとも興味を引くであろう、みごとなジッポーオイルライターのコレクションも展示を諦めざるを得ませんでした。
また、ご存じのように今年で第20回をむかえる盛岡文士劇では、高橋克彦一座の座長というべき存在でもありますが、これにもあまりスペースを割くことができませんでした。
というわけで、全貌に迫ったとはとうてい言い切れないのです。
しかし、高橋氏と出会って30余年になる私でさえ、実はまだ氏の全貌をつかみきれていないというのが正直なところです。
それどころか、年を経るごとに奥行きと幅(肉体的なことではありません)を増していく高橋克彦氏に追いつくのはおろか、ますます離されていくばかりです。
進化を続ける高橋克彦氏の「生きている文学館」としての『高橋克彦一人六人展』をぜひお楽しみください。