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芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.55

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。

なお、過去のエッセイをご覧になりたい場合は、
「美術館通信」コーナーよりpdf形式でご覧ください。

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.55」

江戸東京博物館で開催中(32日まで)の『大浮世絵展』を観てきました。
「大」と付くだけあって、とても規模の大きい展覧会でした。
なにしろ、国内外の美術館から選りすぐりの名品が合計
350点も集められたのですから、ただごとではありません。
私が訪れたのは平日だったのに、人気の高い写楽の前などでは人の頭しか見えないような混雑ぶりでした。

私が初めて本物の浮世絵を観たのは、大学1年のときでした。
選択講義で美術を取り、浮世絵研究の大家である故楢崎宗重先生の教えを受けたのがきっかけです(ずっと後になって、やはり浮世絵研究家でもある高橋克彦さんと出会い、楢崎先生は克彦さんのある小説に登場する人物のモデルだということを知りました)。

あのころの私は浮世絵を「印象画に影響を与えた日本美術」として観ていたため、本当の魅力に気がつきませんでした。
また、品川や神田あたりの出身の友人(つまり、江戸っ子)たちと接しているうちに、浮世絵や落語などの江戸文化は、「江戸時代」の文化ではなく、「江戸地域」の文化だと気づかされました。

その結果、「江戸文化」には近づかないようにしようという警戒心が生じ、浮世絵からも意識的に遠ざかりました。
盛岡で生まれ育った私には「縁のないもの」と決めてかかってしまったのです。
つまり、自分自身に制限をかけてしまったのです。

50歳を過ぎて、その愚かしさにようやく気がつき、「いいものはいい」と何でも分け隔てなく観るようになりました。

前にもちょっと書きましたが、江戸から明治に変わったころ、この国を司る人々は「浮世絵は恥ずかしいもの」として抹殺しました。
浮世絵に限らず、当時は自国の誇るべき文化を否定しまくったのです。
そのため、優れた作品が大量に海外に流出することになってしまいました。
日本人の目が「西洋化」というメガネによって曇っているうちに欧米の目利きが大活躍したわけです。

それはともかく、ここ数年、浮世絵を観るようにしてきましたが、『大浮世絵展』は数のうえでも質のうえでも断トツに素晴らしい内容でした。

岩手では残念ながら浮世絵を観られる機会はあまりありませんが、東京には太田記念美術館のように浮世絵専門の美術館もあるので、これからも機会があれば足を運びたいと思っています。

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