当館が毎月発行している小さな情報紙「石神の丘美術館通信 イシビ」にて連載中の、芸術監督・斎藤純の
ショートコラムをご紹介します。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤 純のショートコラム vol.171
好評のうちに終了した『戸村茂樹 田村晴樹 ふたりの水彩と版画』展(6月15日~8月25日)の関連イベント「ワークショップ/銅版の聲(こえ)に耳を傾けて―銅版画—鏡に映りこむ絵画のように」では、戸村茂樹さんが銅版画の「刷り」の行程を見せてくださいました。その際に戸村さんは「(版画の)原版は楽譜のようなもの。だから、年齢によって演奏が変わるように、刷りも変わる」とお話しされました。
私はクラシックピアノの寵児グレン・グールドを連想しました。グールドは1955年、23歳のときにバッハの『ゴルトベルク変奏曲』を録音します。そして、死の前年の1981年にも同作品を再録音しました。同じ曲であるにもかかわらず、この二つの演奏はテンボも曲想も異なります。
このように、同じ曲を同じ演奏家が演奏しても、年齢によって違うものになるのです。戸村さんによれば、これと同じことが版画制作においても見られるというのです。
数々の版画作品を鑑賞してきましたが、このお話には目からウロコが落ちる思いがしました。