当館が毎月発行している小さな情報紙「石神の丘美術館通信 イシビ」にて連載中の、芸術監督・斎藤純の
ショートコラムをご紹介します。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤 純のショートコラム vol.170
箱根の彫刻の森美術館で開催中の『舟越桂 森へ行く日』展に行ってきました。
開館55周年を迎える彫刻の森美術館はこの記念企画展を舟越桂さんとともに準備をしてきましたが、桂さんは残念ながら今年3月29日に逝去されました。一般的には「追悼展」に変更されるところですが、同展の実現に向けて最後まで励まれた故人とご遺族の意向を尊重し、当初の企画通りに開催されることになったそうです。展示内容の一部変更はやむをえませんが、再現されたアトリエなど期待以上に見応えがありました。
私は1980年代の桂さんの作品を愛するあまり、その後の作風の変化についていけず、特に近年のスフィンクスシリーズには苦手意識が拭えませんでした。ところが、このたびそのスフィンクスシリーズと向き合ったとき、一瞬にして強く惹かれてしまいました。そんな自分自身の変わりようにも驚きました。
スフィンクスシリーズは、異形さの中に舟越桂作品に底通するノーブルな「美」を湛えています。かつての端正な「美」と異なるそれを、桂さんは「新しい調和」と表現なさっています。私はその「新しい調和」にやっと気づいたようです。
そして、今も世界のどこかで兵器が使われ、子どもをはじめ多くの民間人の命が奪われているときだからこそ、この作品と対峙することが意味深いと思えてきます。
舟越桂さんが制作を通して自分を含めた人間を見つめつづけたように、私たちも舟越桂さんの作品を観ることで自分を見つめなおす時間を持つことになります。
同展は11月4日まで開催されています。公共交通機関で行けます(箱根登山鉄道の旅も楽しめます)ので、ぜひ足をお運びください。詳しくは彫刻の森美術館ホームページで。