当館が毎月発行している小さな情報紙「石神の丘美術館通信 イシビ」にて連載中の、芸術監督・斎藤純の
ショートコラムをご紹介します。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤 純のショートコラム vol.168
今月から『戸村茂樹 田村晴樹 ふたりの水彩と版画』展が始まります。お二人は版画・水彩をメインとする創作活動で、岩手の美術界を牽引してきた方たちです。
私が版画の魅力に目覚めたのは、池田満寿夫を知ったことによります。池田は岡本太郎とともに、昭和の時代に一世を風靡した美術家です。
お二人ともテレビをはじめマスコミによく出ていましたから名前は知っていましたが、実は池田の版画作品を私は20歳くらいまで知りませんでした(岡本についても「太陽の塔」しか知りませんでしたが)。私が池田版画のファンになったのは、小説『エーゲ海に捧ぐ』(1977年に芥川賞を受賞)を読んでからです。
「こんな凄い小説を書く人なら、版画も凄いに違いない」と私は思ったのです。当時、私の好きなマイルス・デイヴィス(ジャズトランペッター)のアルバムジャケットにも池田作品が使われていて、ますますファン度が高まりました。
それと同時に池田以外の版画作品にも興味が湧きました。幸い盛岡には第一画廊という、一流の版画作品を扱うギャラリーがあったおかげで、数々の素晴らしい作品を盛岡にいながらにして観ることができたのです。
そんなわけで、私に版画の魅力を教えてくれたのは間違いなく池田満寿夫なのですが、岡本太郎がしばしば再評価され、行方不明だった作品が発見されると大きなニュースになったのに対して、池田は今では忘れられた芸術家となりつつあるように思います。とても残念です。
『ふたりの水彩と版画』展について書くつもりでしたが、寄り道をしている間に紙幅が尽きてしまいました。