当館が毎月発行している小さな情報紙「石神の丘美術館通信 イシビ」にて連載中の、芸術監督・斎藤純の
ショートコラムをご紹介します。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤 純のショートコラム vol.155
盛岡市を拠点に展覧会活動を行っている書家沢村澄子さんの『書のよろこび 沢村澄子展』が4月22日から始まります(6月4日まで)。これを待っていたかのように、文化庁の令和4年度芸術選奨の美術部門で「文部科学大臣賞」を受賞なさったという嬉しいニュースがありました。
沢村さんの「書」は他に類を見ない独自の世界で、従来の「書」の概念では捉えきれません(受賞理由でもそれが挙げられています)。20年近く前、初めて沢村さんの作品に接したとき、「これは絵ですよね」と私は尋ねたものです。「書」と「水墨画」は深い関係があり、書家が水墨画を描くことは珍しくありません。沢村さんの作品を前衛的な水墨画と私は考えたのです。しかし、沢村さんからは意外な答えが返ってきました。
「いえ、どれも書ですよ」
それ以来、私は沢村さんの作品の解読を試みるようになりましたが、文字として読める作品もあれば、どうしても読めない作品もあります。でも、そうしているうちに私はあることに気がつきました。「何が書いてあるのか」ではなく、「何を感じたか」が大切なのだと。
このたびの受賞者には、歌舞伎の尾上菊之助(演劇部門)、大ヒット作『すずめの戸締まり』の新海誠(メディア芸術部門)ら錚々たるアーティストらが名を連ねています。これを契機に沢村さんが築き上げてきた「書」の世界が、より多くの方に広まっていくことを願っています。