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芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.121

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.121」

 

20世紀が「石油の時代」だったのに対して、21世紀は「水の時代」といわれています。

確かに20世紀は石油を巡る紛争が繰り返されました。

21世紀はさらに水を巡る紛争が起こると、多くの学者らが予想したのです。

 

日本で暮らしている私たちは水に恵まれているためピンときませんが、地球規模で見ると、水不足に苦しんでいる人が全人口の半分を占めています。

 

また、自然界の水環境にも大きな変化が起きています。

地球温暖化が「水の循環」に異常をもたらしているのです。

その影響で、日本でも年々、台風や集中豪雨の被害が増えています。

 

先ごろ、国連で気候行動サミットが開かれました。

トランプ米大統領に代表されるように、「地球温暖化」に懐疑的な人も少なくありませんが、世界規模の異常な気候変動は疑いようのない事実です。

その気候変動の原因が地球温暖化なのです。

そして、地球温暖化を招いているのは、ほかならぬ私たちの生活です。

これは実に「不都合な真実」なのですが、もうそこから目を背けるわけにはいきません。

 

国連では、私たち大人が「目を背けている」現実に対してスウェーデンの環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさん(16歳)が堂々と批判する演説をし、世界の注目を集めました。

 

そのようすをテレビのニュースで見ながら、1992年にリオ・デ・ジャネイロで開かれた環境サミットで演説したセヴァン・カリス=スズキ(当時12歳)のことを私は思いだしていました。

彼女の「大変なことが、ものすごい勢いで起こっているのに、私たち人間ときたら、まるでまだまだ余裕があるようなノンキな顔をしています。(中略)どうやって直すのかわからないものを、つづけるのはもうやめてください」という訴えは、悲しいことに(そして、情けないことに)27年後の今もまだ充分に通用します。

 

石神の丘美術館で開催中の『宇田義久展 Aqua』のAquaはラテン語で水のことです。

宇田さんは「振り返ってみると、徐々に川の流れや水の循環に惹かれている自分に気づく」と語っています。

この言葉から私は「炭坑のカナリア」を連想します。

 

昔、炭坑では坑道にカナリアを連れて入っていったそうです。

有毒ガスがあるとカナリアは人間より先に気絶し、危険を知らせてくれます。

それで危機をより早く察知する人を「炭坑のカナリア」というようになりました。

 

思えば、環境活動に長く携わってきた西和賀の瀬川強さんも、世界中を旅して水環境の違いを熟知しているオートバイ紀行作家の藤原かんいちさんも、まるで示し合わせたかのように、水の反映を作品にしています。

彼らも間違いなく「炭坑のカナリア」でしょう。

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