美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.95」
二ヶ月に一度くらいのペースで東京に行きます。
東京では限られた時間の中で美術館をハシゴします。
今回は東京都美術館でブリューゲルを、国立西洋美術館でアルチンボルドを見てきました。
前者の目玉は「バベルの塔」です。
さすがに人気が高く、これを見るには長蛇の列に並ばなければなりません。
そして、係員が「立ち止まらないでください」と厳しく指示しています。
つまり、絵の前を通りすぎる数秒間だけで「見ろ」というのです。
私はずっと前の上野動物園のパンダ園を思いだしました。
あのときの行列も立ち止まってはいけなかったのです。
ちなみに、東京都美術館は上野動物園のお隣りにあります。
後者にもたくさんの人が訪れていたものの、じっくりと鑑賞することができました。
離れたところからは人物の顔(肖像画)に見えるのに、近づいてよく見るとたくさんの花が描かれているという不思議な作風で知られるアルチンボルドは、まさに奇想の画家です。
この展覧会ではアルチンボルドの真似をした画家の作品も展示されていました。
それらと比べると、アルチンボルドがいかに秀でていたかよくわかります。
単に「発想の妙」だけで名を成したのではなく、確かな描写力の持ち主であり、それを支える観察眼と洞察力を備えていた大画家だったのです。
岩手出身の吉田清志(1928-2010)の山の絵も不思議な作品です。
離れたところからは雄大な山を細密に描写した絵に見えるのですが、近づいて見ると奇妙な形のパーツの組み合わせによって山容になっているのです。
吉田清志の絵は、具象画と抽象画について改めて考えさせます。
このように絵は近づいたり離れたりしてみるといろいろと発見があるものです。
9月18日まで開催中の『神尾 裕 展 ~師・吉田清志の作品と共に~』でも、ぜひ絵に近づいたり離れたりしてご覧ください。