美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。
なお、過去のエッセイをご覧になりたい場合は、
「美術館通信」コーナーよりpdf形式でご覧ください。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.72」
3年ぶりに北海道をオートバイで駆け巡ってきました。
前回は地域に根ざした美術館を勉強するために、十勝千年の森とアルテピァッツア美唄をじっくり見てきました。
私のツーリングは美術館や博物館に立ち寄りながらのスローツーリングなのですが、今回はひたすら走りつづけ、道内二泊三日の総走行距離は約1500キロに達しました。
もっと距離を伸ばす猛者も少なくありませんが、私にとっては充分すぎるほどです。
どうしても行きたかった三国峠、納沙布岬、襟裳岬でした。
実はお天気にはあまり恵まれませんでしたが、行きたかったところへ行けたので、よしとしましょう。
ことに20数年ぶりに再訪した納沙布岬と襟裳岬は、もう来る機会はあるまい(私のオートバイライフも残すところ10年前後でしょうから)と思うと、感慨深いものがありました。
どちらも遠い道のりでした。ゲリラ豪雨にも遭遇しました。
でも、いい思い出になりました。
オートバイの旅は、炎天下では暑く、雨の中ではズブ濡れになります。
それらを通して、北の大地の息吹を全身で感じてきました(つらさを楽しむのがオートバイの極意でもあるのです)。
北海道は大自然に恵まれていますが、私たちオートバイ乗りが路上から目にする風景は人の手の入ったところです。
一見、自然のように見えて、実は先人が未開の大地を切り拓き、今の姿になったのです。
これを成し遂げた北海道の先人に私は畏敬の思いを抱きます。
もちろん、三国峠からの眺望に代表される原生林も北海道ならではのものです。
北海道はとても豊かな地です。
あの豊かさが活かされていないとしたら、それは政治に少なからず責任があるのだと思います。
道内では随所でTPP反対の看板を目にしました。
地に足の着いた暮らしを大切にする政治であってほしいと願わずにいられませんでした。
また、北海道に限らず日本は森林資源に恵まれているにも関わらず、残念ながら充分に活用されているとはいえません。
ヨーロッパでは森林資源の活用が急速に進んでいます。
大いに見習うべきでしょう。
北海道から帰った翌週、今度は仕事で会津界隈をツーリングしてきました。
こちらは濃密な歴史と文化を味わう旅になりました。
日本は面積は狭いかもしれませんが、歴史という奥行きの深さを改めて感じさせられました。