美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。
なお、過去のエッセイをご覧になりたい場合は、
「美術館通信」コーナーよりpdf形式でご覧ください。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.65」
明けましておめでとうございます。
昨年は突然に春がやってきたと思ったら、今度は突然に夏になり、秋の到来も突然でした。
それぞれの季節を結ぶ中間がなくなったような感じがしたものです。
そして、やはり冬も突然にやってきました。
冬の間はオートバイにもロードバイク(長距離レースの競技用自転車)にも乗れないため、これまで私はまるで冬眠をしているような状態で過ごしてきたものですが、体がなまってしまうので、スキーを再開しました。
再開といっても40年近いブランクがありますから、ほぼ初心者同然です。
それでも、昔とった杵柄というのでしょうか。
ゲレンデを恐る恐る滑り下りていくあいだに、体が自然に反応していくのがわかりました。
自転車と同じで、スキーはいったん身についたら忘れないのだそうです。
とはいえ、私がスキーに熱中していた十代半ばのころとはスキー道具もテクニックも異なります。
スキースクールで一から学んでいますが、やはり「初心者同然」だと痛感させられます。
おもしろいことに、私が受講しているスキーレッスンのコーチは、ロードバイクの仲間なのです。
これはスキー場で出会って初めてわかったことで、まったくの偶然でした。
スキー板を通して伝わってくる雪面の質感やゲレンデならではの冷気に猛烈な懐かしさを覚えました。
それだけでもスキーを再開してよかったと思いました。
実は自転車もギター(バンド活動)も、20年ほどのブランクがあって40歳を過ぎてから再開しているのです。
いろいろ遠回りをして、結局、原点に戻っているような気がしないでもありません。
原点といえば、私のすべての原点は映画(それも洋画)に求めることができます。
天候が悪くてスキーに行けない休日は、1960年代から70年代初頭にかけて公開された映画をDVDで楽しんでいます。
産業としての映画は現在のほうが盛んだと思いますが、映画が持つ力はあのころのほうが遥かに強いと感じます。
あるいは、映画に限らず、絵画だろうと小説だろうとジャズだろうと「力を持っていた時期」が過去にあり、そのおかげで今があるということができるのかもしれません。
美術館はそういったことを伝えていく使命も持っていると私は思っています。
岩手町立石神の丘美術館を今年もどうぞよろしくお願いします。