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芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.57

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。

なお、過去のエッセイをご覧になりたい場合は、
「美術館通信」コーナーよりpdf形式でご覧ください。

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.57」

絵画やクラシック音楽などの芸術はスルメのようなものだと思います。
これに対して、コミックやポップスはチューインガムです。

チューインガムは口に入れて噛んだとたんに子どもから大人まで、ほとんどの人が「甘くておいしい」と思うでしょう。
ところがスルメはそうはいきません。
固くて噛むのに疲れますし、味だってそう簡単にはわかりません。
ところが、大人になると(特に飲んべえにとっては)こんなにおいしいものはない、ということになります。

チューインガムは(このごろのは長持ちするといっても)数分後には味がなくなってしまい、その後はゴミになるだけですが、スルメは噛めば噛むほど味わい深くなり、味がなくなった後は飲み込んでしまえます(栄養にもなるはずです)。

つまり、誰にでもすぐにわかるチューインガムと違って、スルメの味がわかるには年季のようなものが必要だといっていいと思います。

ここでいう年季とは、積み重ねのことです。
音楽や美術作品を、自分の目と耳から何度も繰り返して吸収することです。
そのうえで必要に応じて本を読んだり、講座に通ったりすると、より楽しめるようになります。

ある段階を超えると、音楽を聴いたり絵画を観たりすることで、栄養を得られるようになります。
もちろん、精神の栄養なのですが、体に血肉となって吸収されていくように感じられます。
その意味でもスルメと似ています。美術館やコンサートホールはスルメだと思ってください。

もしチューインガムで栄養を得られるとしたら、それはそれで効率がよく、羨ましいと思います。
私には真似ができませんけれど。

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