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芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.53

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。

なお、過去のエッセイをご覧になりたい場合は、
「美術館通信」コーナーよりpdf形式でご覧ください。

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.53」

しばしば私たちは「日本は長い歴史を持つ国」といいます。
それは確かにそのとおりなのですが、その長い歴史の中で生まれてきた芸術文化に私たちはどれだけ触れているでしょうか。

恥をしのんで告白しますと、私は『源氏物語』を読んだことがありません。
『源氏物語』を原文で読んで理解することは私の能力では不可能です(素晴らしい意訳もたくさん出版されていますが)。
なにしろ日本語は時代によって大きく変化しているので、江戸時代のものさえ読むのに苦労します。

西行は好きで『新古今集』などをたまにひっぱりだしています。
ただ、今は使われていない大和言葉に、異国情緒にも似た印象と憧憬を覚えるのですから屈折しています。

音楽に目を(耳を?)転じると、長唄、義太夫、宮廷音楽というべき雅楽など多彩な伝統音楽があるのですが、私が日常的に聴いているのはクラシックやジャズなどです。

日本の美術作品に触れる機会もそう多くはありません。
おそらく印象派の展覧会のほうが日本画の展覧会よりも多いでしょう。

こうして見ると、日本という国は不思議な国だと思ってしまいます。
「アメリカは日本に比べると歴史が浅い」と平気で口にする割に、基本的にはアメリカの芸術文化の中で生活しているのですから。

それはともかく、今年は日本画を観る機会に恵まれました。
伊藤若冲を「東日本大震災復興支援『若冲が来てくれました』プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」展(岩手県立美術館)と、「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」(江戸東京博物館)という二つの大きな展覧会で観られましたし、「竹内栖鳳展 ?近代日本画の巨匠?」(東京国立近代美術館)と「横山大観展 ?良き師、良き友」(横浜美術館)で東西の両巨匠の作品を観ることができました。
また、大観らを育てた橋本雅邦にスポットを当てた「狩野派と橋本雅邦?そして、近代日本画へ」展(埼玉県歴史と民俗の博物館)も大きな収穫でした。

若冲の優れた作品が残念なことに日本ではなく、アメリカにあることが上記二つの企画展によって明らかです。
「本格的に日本美術を勉強しようと思ったら、アメリカに留学しなければならない」と聞いたことがあります。
若冲に限らず、優れた日本美術が、明治以降、大量にアメリカに流出したことを物語っています。

改めて考えると、明治は日本美術が国外に流出しただけではなく、日本古来の文化も失った時代でした。

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