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芸術監督・斎藤 純のショートコラム vol.172

当館が毎月発行している小さな情報紙「石神の丘美術館通信 イシビ」にて連載中の、芸術監督・斎藤純の
ショートコラムをご紹介します。

 

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤 純のショートコラム vol.172

 

 今秋、ふだんはなかなか観ることのできない「茶道具」を公開する企画展がいくつかあり、上京した際に足を運んできました。私は茶道にもその道具にも興味がなかったのに、展覧会場では絵画の展覧会よりも長い時間を過ごしているという変わりようです。

 実はご縁があって、茶道の流派のひとつである武者小路千家岩手官休会の会長を2年前に仰せつかりました。武者小路千家は表千家、裏千家とともに三千家と呼ばれ、千利休の道統と血統を400年も継承しています。いわば私はその岩手支部長に任ぜられたわけです。茶道の心得もない私がそんな重責を担うことになった経緯はいつかお話しするとして、当初は仕方なく、どちらかといえば嫌々ながら茶会に出向いていたのに、だんだんと楽しくなってきたのには我ながら驚きました。

 まず第一に、茶会はお集まりのみなさんと特に何かお話をするわけでもなく、ベテランからありがたい講話を聞くということもなく、供された一服のお茶をただ味わうだけです。時間にして20分ほどでしょう。しかし、その短い時間に、その場以外では感じることのできない、独特のピリッとした空気があることに気付きました。そのとき、「これは、いい」と思いました。

 第二に、茶会では博物館や美術館などでガラスケース越しにしか観ることのできない書画をじかに目にし、茶道具を手にすることができます。茶会を何度か経験していくうちに、これまでの「日本美術」の見方とは異なる、一種の「手仕事の美、実用の美」を感じられるようになりました。それはまさに日本美術が持つ本質にかかわることであり、私にとって想定外の大きな変化でした。

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