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芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.117

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.117」

 

毛越寺に招かれ、526日に浄土庭園で開催された「曲水(ごくすい)の宴」に参宴してきました。

 

「曲水の宴」は遣水(やりみず)を浮かべ、流れに合わせて和歌を詠む、平安時代の遊びを再現したもので、毛越寺では古文書に則って「ごくすいのえん」と呼んでいます。

 

参宴者は平安時代の貴族の衣装を身に着けますので、盛岡文士劇の延長みたいなものだろうという気持ちで引き受けたものの、時間が経つにつれて「大変なものを引き受けてしまった」と、つくづく後悔しました。

なにしろ、私は和歌の素養がほとんどありません。

付け焼き刃ながら枕詞を勉強しないといけないと調べはじめると、現在の短歌では枕詞を使わないのだそうです。

言葉遣いについても毛越寺に問い合わせると、万葉風の古語である必要はなく、現代語でいいと言われて、だんだん気持ちが軽くなっていきました。

 

といっても、詠んだこともない和歌を(全国にお披露目されても恥ずかしくないレベルのものを)作らなければならないのですから、荷が軽くなったわけではありません。

しかも、本番では短冊に毛筆で自作を認めるという難関も待ち受けています。

さらに、後になって私は「主客歌人」であると知り、愕然としました。

「そんな話は聞いていない」と怖じ気づいたところで後の祭りです。

 

まず、和歌をいくつか作り、これを岩手県歌人クラブのY先生に送り、選んでもらいました。

「曲水の宴」は毎年、歌題が定められます。

令和最初の「曲水の宴」の歌題は「晴れ」でした。

 

これがいいでしょう、とY先生が選んでくださったのが下記の歌です。

私は添削をしてもらうつもりでいたのですが、字句の訂正などはありませんでした。

 

 新しき 令和寿ぐ 詠み人の

 笑み晴れやかに 曲水の宴

 

この歌を作る上で留意したのは、当日の天候が晴れるとは限らないという点です。

また、「曲水の宴」は、講師(こうじ)が披講(ひこう)といって歌を読みあげるのも大きな特徴です。

ですから、耳で聴いて理解できる歌を心がけました(この点は参宴された岩手県歌人クラブの面々も苦労なさったそうです)。

ちなみに、講師は宮中歌会始でも披講をつとめていらっしゃる久邇朝俊(旧皇族久邇宮家)さんと近衛忠大(旧華族近衛家)さんです。

 

当日はお天気にも恵まれ(暑いくらいでした)、県外はもちろん海外からの観光客もたくさんいらして、盛会のうちに終えることができました。

私もなんとか主客歌人の大役を果たすことができ、安堵のあまり、フワフワと舞う蜉蝣のような態で日々を過ごしています。

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