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芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.107

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.107」

 

かつて私はホンダ・スーパーカブを乗り回していました。

10年ほど前に友人に譲り渡すまでの5年間だけの付き合いでしたが、楽しい思い出がたくさん残っています。

 

道でよく目にするスーパーカブは排気量が50ccの原付(自動車免許を持っていれば乗れます)ですが、私のは自動二輪免許が必要な90ccのモデルでした。

これは原付と違ってタンデム(二人乗り)ができるのです。

そこに目をつけた某テレビ局が、妻とのタンデムツーリングの番組を企画し、網張や玄武温泉など岩手山の山麓を一泊二日かけて旅をしました。

これもいい思い出のひとつです。

 

スーパーカブは1958年に登場して以来、累計生産台数が2017年秋に1億台に達し、世界最多量産ならびに販売台数を記録しています。

エンジンをはじめ、あらゆる部分が進化しているのですが、「見た目」は1958年の発売当時のモデルとほとんど変わりがありません。

これも我が国の工業製品の中では異例中の異例といえるでしょう。

ホンダはスーパーカブによって世界に知られる存在になり、これを「発明」した本田宗一郎の名を不動のものにしました。

 

スーパーカブの特長は、何よりも燃費のよさにあります。

50ccエンジンのスーパーカブはリッターあたり60キロは走るでしょう。

久性が高く、頑丈でなかなか壊れないため、一台に一生乗れます。

また、小さいながら走破力も馬鹿にできません。

 

私は旧沢内村から秋田県美郷町へ抜ける真昼林道(しばしば通行止めになることでも知られています)をスーパーカブで走ったことがあります。

途中、本格的なオフロードバイクに乗ったライダーらに会いましたが、私のスーパーカブが淡々と走っているのを見て唖然となった顔を忘れられません。

これも楽しかった思い出です。

 

スーパーカブの特長を活かして、日本一周はもちろん、世界一周にチャレンジしている強者も少なくありません。

スーパーカブで「地球縦断の旅」を実現させた藤原かんいちさんは、そんなチャレンジャーらの「鑑」であり、「お手本」というべきライダーです。

 

今月11日から始まる『旅行家・藤原かんいち写真展 夢とバイクは海を越え、国境を超える』では、藤原さんのこれまでの旅の足跡を存分に味わっていただけるでしょう。

私はこの企画展を通じて、藤原さんを旅に駆り立てる原動力に触れてみたいと思っています。

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