美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。
なお、過去のエッセイをご覧になりたい場合は、
「美術館通信」コーナーよりpdf形式でご覧ください。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.43」
昨年2月に文化庁長官官房政策課が発表した『文化芸術関連データ集』によると、
日本人が「物の豊かさ」よりも「心の豊かさ」を指向するようになったのは昭和53年あたりからです。
高度成長期が一段落し、生活を見直した時期にあたるでしょう。
がむしゃらに働き通して、さていったい何が残っただろうか、
あるいは何を得ただろうかという疑問と反省が、心の豊かさを求めることにつながっていきました。
この傾向は年を経るごとにますます強まってきていて、
日常生活の中で優れた文化芸術を鑑賞したり、自ら文化活動を行なったりすることを
「非常に大切」、「ある程度大切」と考えている人は約9割にもなるそうです。
しかし、1年間に1度でも美術館や博物館に足を運んだ人は4割でした。
身近なところに文化施設がないという切実な事情もあるようです。
心の予算を求める声に政府はどのように応えているでしょうか。
各国の文化予算を比較したデータがあります。
国家予算に占める文化予算の割合が断トツに多いのはフランスで0.86パーセント(4817億円)、
次いで韓国の0.79パーセント、中国とドイツがおよそ0.4パーセント、イギリスが0.23パーセント。
日本は0.12パーセント(1018億円)ですから、先進国の中ではとても低いレベルです。
昭和50年代半ばの2倍以上に増えているとはいえ、
心の豊かさを求める国民の声に対して十分に応えているとはいえません。
ちなみに、アメリカの文化予算は日本よりも少ないのですが、
民間企業から数10兆円規模の寄付が文化施設を支えているので、
文化大国のフランスでさえ足元にも及びません。
さて、石神の丘美術館は岩手町のみなさんの身近な文化施設として愛され、
昨年7月には20万人目の来館者をお迎えすることができました。
年間平均2万人の方にお越しいただいたことになります。
今年は開館20周年の記念年です。
気持ちも新たに、心の豊かさを求めるみなさんの声にお応えしていきたいと思っています。
本年もどうぞよろしくお願いします。