当館が毎月発行している小さな情報紙「石神の丘美術館通信 イシビ」にて連載中の、芸術監督・斎藤純の
ショートコラムをご紹介します。
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤 純のショートコラム vol.176
坂本龍一が他界して早くも2年になります。東京都現代美術館では 『音を視る 時を聴く』 展が3月30日まで開催されています。これは、映画音楽でグラミー賞に輝き、YMOで一世を風靡した坂本龍一のもうひとつの顔だった「現代美術家」に焦点をあてた企画展です。
坂本は映像作家らと組んで、精力的にインスタレーション(空間美術)を制作しましたが、音楽の業績があまりに大きかったためか、ほとんど注目されていません。これを機会に「現代美術家」としての坂本龍一が再発見されることでしょう。
ところで、YMOが大ヒットしていた当時、二〇代だった私はジャズとブルースという黒人音楽の底無し沼にどっぷりハマっていたため、まったく見向きもしませんでした。後年、我が国を代表するチェリスト藤原真理さんから「クラシック専門のピアニストよりずっと素晴らしい」と絶賛する言葉を聞いてから聴くようになり、さらにパウロ・ジョビン(ボサノヴァの創始者アントニオ・カルロス・ジョビンの息子)やジャキス・モレレンバウム(ブラジル音楽界を代表するチェリスト)らとのボサノヴァ活動(アルバム制作、ライブ)には坂本の美学が凝縮されていて、愛聴しています。
19世紀の批評家ウォルター・ペイターは「あらゆる芸術は音楽の状態に憧れる」と記しています。その頂点を究めた坂本龍一の世界を、東京都現代美術館で体験したいと思っています。