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芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.100

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.100」

 

言語学者の金田一秀穂さん(祖父は金田一京助、父は金田一春彦)が、このごろ「無駄の効用」というお話をよくされています。

年末に成功裏に終えた盛岡文士劇の舞台挨拶でも「効率を考えたらこんな無駄なものはないでしょう。でも、この無駄がみなさんの心を豊かにするんです」とおっしゃいました。

いつだったか、講演でも「無駄はいけないという発想をやめましょう。一見、無駄なことが社会に潤いを与えているのです」と力説なさっていました。

「無駄こそ大切」は金田一さん流の哲学と言っていいでしょう。

 

話は飛びますが、義父からニコンSという古いカメラをもらいました。

私が生まれる前に製造されたモデルで、現在の貨幣価値に換算すると80万円近くしたシロモノです。

1.4という素晴らしく明るいレンズが付いているのですが、すべてマニュアル操作(露出計さえ付いていません)、もちろんフィルムです。

これを使いこなすには相当な鍛練が必要そうです。

今年はこれに挑戦しようと思っています。

実用にはデジカメのほうが向いていますし、日常的にはiPhoneのカメラで充分に用が足りていますから、今さらあえてフィルムの(しかも旧式の)カメラを手にする必要はありません。

それこそ無駄の極致でしょう。

 

ところで、この連載が今回で第100回を迎えました。

1回(ishibi通信200941日発行Vol.78)は芸術監督就任の挨拶に始まり、まだ冬枯れの石神の丘(屋外展示場)の散策路がお気に入りの場所であると記し、京都の「哲学の道」を真似て「思索の道」と命名しています(その後、フィールド生理心理実験に基づいた科学的効果の検証がなされて「森林セラピーロード」に認定されました)。

 

美術館が発行しているのだから、このコラムも美術のことを書くのが本筋なのでしょうけれど、美術について専門的なことはほとんど書いていません。

たまにカタい内容(環境問題や文化行政など)にも触れていますが、多くは旅行のこと、クルマやオートバイ、音楽のこと、身辺雑記などあまり役に立ちそうにないことばかりです。

 

金田一さんならきっと「こういう無駄が大切なんだ」と褒めてくれることでしょう。

そんなわけで、これからもこのコラムをよろしくお願いします。

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