最新情報・ブログ

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.52

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。

なお、過去のエッセイをご覧になりたい場合は、
「美術館通信」コーナーよりpdf形式でご覧ください。

********************************************************************

石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.52」

クラシックのコンサートには何かと「決まりごと」が多いです。
何かの都合で会場に遅れて着いたとします。
案内係の方から「この曲(あるいは、この楽章)が終わるまでお待ちください」とドアの前で待たされ、曲が終わるとようやく入れてもらえます。
これなどはほかの聴衆の迷惑にならないためでもあって、納得できる決まりごとといえるでしょう。

今ひとつよくわからないのは、楽章間の拍手が禁じられていることです。

クラシック音楽は交響曲でも協奏曲でも室内楽の作品でも、そのほとんどは複数の楽章から成り立っています。
たとえば、『運命』という題名で知られるベートーヴェンの交響曲第5番は、4つの楽章で構成されています。
馴染み深い「ダダダダーン!」で始まる第1楽章が終わったとき、つい拍手をしてしまいそうになりますが、現在のクラシックコンサートではその後に続く第2楽章、第3楽章、そして第4楽章とすべての楽章を聴き終えてから拍手をする決まりになっています。

拍手のタイミングがよくわからない、という方も少なくないと思います。
一番確実なのは、背中を向けてオーケストラを指揮していた指揮者が客席に向き直ったときに拍手をすればよいのです。

指揮者のいない室内楽の場合は、演奏家が立ち上がったときに拍手をします。

クラシックファンの中には、演奏が終わるのと同時に拍手することに命をかけているような人もいますが、恥ずかしいことなので決して真似をしないでください。
音楽の響きを充分に味わってから拍手を送るのが最大の礼儀でしょう。

すべての楽章が終わるまで拍手をしないことを「現在の決まり」と書いたのにはわけがあります。
このルールができたのは
20世紀に入ってからのことで、それ以前は楽章間どころか演奏中であっても、いいところがあると盛大な拍手が起きたのです。
その伝統は今でもバレエとオペラに見ることできます。
別の言い方をするなら、演奏中に拍手が起きないような曲は失敗作ということになります(モーツァルトは姉への手紙に、拍手で演奏が聴こえなくなるほどだったと喜びを書き綴っています)。

ですから、たいていの曲の第1楽章は、盛り上がって終わります。
つまり、作曲家は拍手が来るように意図してつくったのに、現代の我々はそれに対して拍手をしてはならないという決まりに縛られていることになります。

それもこれも演奏家の集中力を切らせないためなのです。
拍手をしたい気持ちを抑え、その分、拍手すべきところで盛大な拍手を送りましょう。
いい演奏を聴くためにも最低限の決まりごとは頭に入れておきたいものです。

過去の記事

開館時間・休館日

◆開館時間
9時~17時
(入館は16時30分まで)
◆休館日
・毎週月曜日(月曜日が祝日の場合その翌日/臨時開館の場合有り)
・年末年始(12/29~1/3)

→観覧料・アクセス
→お問い合わせフォーム